春日大社の灯籠



 春日大社を象徴するものとして回廊や社殿に吊されたさまざまな形の釣燈籠や参道に建てられた石燈籠があります。これらは平安時代の貴族から江戸時代の庶民、そして企業や一般の方々と様々な時代に色々な人たちによって寄進されたもので、全ての燈籠に灯りが灯される万燈籠は境内が神秘的で厳かな雰囲気につつみこみこまれ幻想的な光景を見せてくれます。


燈籠(灯籠)の数・意味


 灯籠は様々な願いを込めて平安時代から寄進されてきたもので、記録では雨乞いなどの際に村や集落がお金を集めて寄進することもあったと残されており、現在春日大社境内にある灯籠の数は約3000基(釣燈籠 1,000基・石燈籠2,000基)となっています。また燈籠自体は祈願成就の為に寄進されるものですが、その灯籠に灯される火にも神様に浄火を献じて祈願するという意味が込められています。後述してある「万燈籠」は正式には自らが寄進した灯籠に献火し祈願する意味が込められています。 


燈籠(灯籠)の寄進・値段

 平安時代末から行われてきた灯籠の寄進。寄進は現在においても可能でその値段は制作費から管理、万燈籠時の灯火なども含め釣燈籠で200万円、石灯籠は250万からとなっています。
 筆者は実際に灯籠を寄進したことがないので、具体的な説明はできませんが興味のある方は春日大社に問い合わせてみればいかがでしょうか?


燈籠にまつわるエピソード

 霊験あらたかな春日大社の燈籠。この燈籠にまつわるお話はいくつか伝わっているのですが、筆者が地元の図書館で見た本に記載されていたエピソードをひとつご紹介いたします。
 江戸時代の頃、現在の大阪府門真市の村民が特産品のレンコンを奈良まで行商した際、盗賊に襲われる事件が発生しました。そこで村人達は奈良の春日大社へ燈籠を寄進し、御用提灯を授かったところ以来盗賊に遭わなくなったということです。本にはこのお話に登場する燈籠は現在も残っていると記されていました。


石燈篭と釣燈篭

春日大社の燈篭 春日大社の燈籠。手前に見える2基の石燈籠の他、後ろの回廊には釣り燈籠、釣金燈籠(金色の燈籠)が見えます。他にも写真には映っていませんが、回廊の朱色と同じ色をした「春日燈籠」と呼ばれるものもあります。釣燈籠は回廊を中心に釣り下げられていますが、あまりの多さに通行できない部分もあるほど。


石燈籠

春日大社の石灯籠 春日大社の石燈籠。春日大社境内を散策していると特に目に付きます。春日大社の境内には約3000基もの数の灯路があるといわれていますが、よく見てみると色や形も様々となっています。


石段と燈籠

 春日大社の石段。春日大社の本殿は境内の北東部の小高い丘の上にあり、本殿まで行くには必ず石段を登らなければなりません。この日は小雨が降る天気で石段もしっとりと濡れ滑りやすくなっていました。なお左側に見えるのが春日大社の石灯籠です。

春日大社の石段



釣金燈籠

春日大社の釣金燈篭 春日大社の釣金燈籠。釣金燈籠は主に身分の高い人達からの寄進されたものが多いとされ、中門にある春日大社最大の釣金燈籠は近衛篤麿が奉納したもの。


近衛家とは
 春日大社最大の釣金燈籠を奉納したのは近衛篤麿ですが、この名字である「近衛」、私達は様々な場面で耳にします。ではこの近衛家とはどのような家柄なのでしょうか?
 近衛家とは日本公家の頂点である五摂家のひとつです。五摂家とは藤原氏嫡流で公家の家格の頂点に立った5家のことを指し大納言・右大臣・左大臣を経て摂政・関白、太政大臣に昇任することができる家柄で、近衛家・九条家・二条家・一条家・鷹司家の5家があります。
 近衛家は中世以降歴史の表舞台に度々登場しており、下流階級出身の豊臣秀吉は近衛家の猶子となり関白の位についたため、近衛家には一目置いていたといわれてます。また本ページで紹介している近衞篤麿(このえ あつまろ)は1895年(明治28年)に学習院院長となり、華族の子弟の教育に力を注いだ人物です。そのほか西欧列強と植民地競争を繰り広げ戦争の道に突き進んだ昭和初期には近衛篤麿の子である近衞 文麿(このえ ふみまろ)が総理大臣を務めています。また第79代総理大臣を務めた細川護煕は近衞文麿の孫にあたります。


御手洗川

春日大社の御手洗川  春日大社の御手洗川。春日大社西側の移殿脇を流れています。一部暗渠構造になっており川というよりは水路と表現する方がピッタリときます。この御手洗川周辺にも燈籠が吊されており、万燈籠の日は灯りが水面に映り幻想的な光景となります。なおこの御手洗川ができたのは鎌倉時代の文永4年(1267年)と云われています。


万燈籠


 万燈篭とは800年ほど前から行われてきた先祖の冥福や祈願成就、無病息災を願い毎年お盆と節分に春日大社の境内にある約3000基(釣燈籠 1,000基・石燈籠2,000基)すべての燈籠に浄火が灯される行事。厳密には燈籠を寄進した人の祈願成就の為に行われる意味を持っていますが、長い年月経て寄進者の分からなくなった燈籠も多数あり、現在は万燈籠の日に3,000円の初穂料を納めることにより自らの願い事を紙に記し奉納し献灯することができます。


 下の光景は主に万燈籠時の回廊の光景ですが、万燈篭時は春日大社全体が燈篭の明かりに包まれ、原始の森の中に浮かび上がる朱塗りの社殿は幽玄の一言につきる光景となります。


万燈籠の光景

春日大社 万燈篭  万燈籠時の光景。回廊に釣り下げられた燈籠に明かりが灯されています。回廊では万燈籠の内側に人が入り込まないようガードマンと思われる方が警備していました。

春日大社の万燈篭 万燈籠のほのかな明かりに照らされ浮かび上がる朱塗りの回廊。何とも幻想的な光景です。一般の参拝客は回廊柱の外側を巡り万燈籠を眺めることとなります。