奈良公園の鹿



 奈良公園の鹿は公園内に鎮座する春日大社の神使であるとされ、春日大社創建の際、茨城県にある鹿島神宮の祭神・武甕槌命が白い神鹿に乗ってやってきたと伝えられています。この為、奈良公園の鹿は古くから手厚く保護されてきており、昔は殺めると厳しい刑罰を受けました。言い伝えでは誤って文鎮で鹿を殺してしまった子供が鹿の死骸とともに生き埋めとなり、その墓とされる塚は奈良公園に残されています(春日大社近くの菩提院)。
 鹿達は現在野生の動物として生息しており、その数は約1200頭ほどで国の天然記念物にも指定されています。これらの鹿達は野生動物の位置づけですから野放しにされていますが、身ごもった雌鹿などは春日大社境内にある鹿苑で保護されています(毎年6月中旬頃にその年に生まれた子鹿200匹ほどを公開しています)。また奈良公園のマスコット的存在として観光客や地元住民から愛されている一方交通事故による被害も多発しており(年間100等前後の鹿が交通事故の被害に遭っているそうです)、鹿と人間の共存も大きな課題となってきています。このほか毎年冬と夏に行われる「鹿寄せ」はホルンでベートーベンの交響曲第6番「田園」の一節を吹き鳴らすと、たくさんの鹿が林から飛び出し一斉に集まってくるもので外国人観光客などにも人気のイベントとなっています。
 
奈良公園では毎年鹿に襲われ骨折するなどの大きな怪我をするといった事故が発生しています。鹿は元来おとなしい草食動物ですが、野生の動物でもあります。むやみやたらに脅かしたりする行為は控えましょう。


鹿の数


 奈良公園及びその周辺で生息している鹿は昭和20年の調査では79頭という記録が残されていますが、その後奈良の鹿愛護会をはじめとした有志の保護により数を増やし1980年代以降は1100頭〜1200頭の間でおちついています。

公園内の光景


奈良公園の鹿 奈良公園の鹿。鹿は露天が建ち並ぶ参道から森の奥、神社の境内、はては一般道路にまで至るところで見ることができます。このように鹿が多いため公園内では鹿の糞もあちらこちらで見られますが、いちいち気にしてたら歩くことなどできません。


奈良公園 鹿 奈良公園春の光景。池の向こうには梅のつぼみが今にも咲き出そうに色づいています。春を迎えて奈良公園の鹿もご覧のように毛が抜け始めてきています。なお鹿は花びらが大好物で、春には風に散り地面に落ちた梅や桜の花びらを好んで食べる光景を見ることができます。

春日大社周辺

 春日大社の本殿へと通じる参道。参道脇には石燈篭が建ち並びアイスクリームの出店もありました。神の使いとされる鹿は人をはばかること無く参道の真ん中を自由気ままに徘徊しています。

春日大社の参道


 春日大社がある奈良公園には神の使いとしてその数およそ1200頭もの鹿が生息しています。鹿が一番多く見られるのは市街地に近く餌をくれる観光客も多い東大寺周辺で、車が走行する公道でも鹿の姿を見ることができます。

春日大社の鹿



東大寺周辺

奈良公園 奈良公園の鹿。東大寺の南大門に続く参道を闊歩しています。筆者が見ていた限りでは鹿が「鹿せんべい」を販売している店舗に近寄る事はありませんでしたが(お店の方の話では結構鹿に持って行かれているのだそうです。)、不思議なことに観光客が鹿せんべいを手に持つとすぐに近寄ってくる。この鹿せんべいはぬかと小麦粉で作られており人が食べることも可能。1672年にはすでに販売されていた記録が残っているそうです。

 公園内の参道のど真ん中を闊歩する鹿。外国人がうれしそうにカメラを向けていましたが、鹿は気にすることなくそのまま歩いていきました。なお鹿の角は毎年秋の「角切り」という行事で切り落とされる為(鹿の角は人の爪と同じで切っても痛みはないそうです)、公園内には角の生えた鹿はいません。また切り取った角は20p前後の短い角で1本千円程度、約50cm左右対称の立派な角で1対8万円から鹿愛護協会事務局やそのホームページで販売されています(アクセサリーや工芸品の材料の他、犬のおしゃぶり等に利用されるのだそうです)。

東大寺周辺の鹿



奈良公園の主 鹿のうんちく


夜はどうしてるの?

車道を歩く奈良公園の鹿  一見無秩序に行動しているように見える奈良公園の鹿ですが、実はきちんと規則正しい生活をしています。まず日の出と共に餌場へ出勤。餌場というのはセンベイをくれる観光客がいる参道や公園内の草原です。ここで1日を過ごした後、夕暮れと共に泊まり場に移動して20頭前後のグループで夜を過ごします。ですから昼間鹿で賑わう参道も夜は鹿の姿は一匹も見られなくなります。
 この泊まり場というのは動物達が寝る所で、通常自然界では捕食者に襲われる心配の少ない安全な場所が選ばれます。では奈良公園の鹿における泊まり場とは何所なのでしょうか?実は泊まり場は奈良公園の関係者達もよく把握しているわけではなく、おそらく公園内の人けのない静かな茂みと推測されています。その一方で「公道」を泊まり場としているグループもみられます(主に歩道で休むが中央分離帯で休む鹿もいる)。人や車が往来するのでたしかに外敵に襲われる心配は無いのですが、公道を泊まり場にしていることによって年間100頭もの鹿が交通事故に遭遇しているのです。また選挙やイベントの案内ポスターが食いちぎられるといった奈良ならではの被害も多発し、鹿の被害とは分からず警察が出動することもあります(注:人が選挙ポスターを破ったりすると罰せられます)。


オスにとってはハーレム?

 奈良公園の主で天然記念物に指定されている鹿ですが、個体数はメスがオスの3倍近くあります。その理由は至って簡単でメスの方が長生きをするから。過酷な大自然とは環境が異なる奈良公園では鹿達も寿命を全うすることが多く、自然と長生きするメスの個体数の方が多くなったのだそうです。では奈良公園はオスにとってハーレムなのか?というと半分Yesで半分Noなのだそうです。これも理由は簡単。長生きするメスが増える=オバァチャン鹿が増えるということで、若いピチピチのメスが多いわけではないのでオスにとってハーレムとはいえないそうです。それに元来鹿は力の強いオス鹿が何頭ものメスを囲う一夫多妻制ですからメスの個体数が多い少ないにかかわらず強いオスはハーレムの王者となれるわけです。


鹿の供養

 奈良公園で亡くなる鹿は1年間で約360頭ほど(このうち100頭前後が交通事故による)。これらの鹿は公園内の鹿苑で火葬され鹿塚に埋葬されます。また毎年11月には鹿煎餅の製造業者らが参列するなかで春日大社の神職により供養され慰霊されるのだそうです。鹿とはいえ神様(春日大社)の使いですからちゃんと供養されているわけです。この鹿苑は公園内にありますので観光で訪れた際には一度訪ねてみてはいかがでしょうか?


フンコロガシの楽園

 奈良公園に鹿が多いということは、その分鹿の糞も多いということ。この為、奈良公園では動物の糞を餌とするコガネムシ「フンコロガシ」がたくさん生息しています。彼らは大好物の鹿の糞を見つけると自らの巣穴に運び込みます。仮に餌として食べ残しても地中で分解され芝の肥料となり、その芝が鹿達の餌となるわけです。
 餌が豊富な奈良公園では最大2p近くの大きさまで育ったフンコロガシも見られ、近年はこれらフンコロガシを観察するイベントも企画されています。このフンコロガシ達、さすがに参道など人通りの多い場所ではなかなか見ることができませんが、芝生エリアに行けば鹿の糞の周りに小さな盛り土のようなものがあり、それが彼ら達の巣なのですぐに見つけることができます。なお奈良公園ではこのフンコロガシ達のおかげで糞が素早く分解され、悪臭を放つことがないのです。