なぜ?靖国神社の問題の理由をわかりやすく教えて



靖国神社 問題 靖国神社を初めて訪れた時、気になることのひとつが警備員や警察の方の姿をあちこちで見かけること。これは他の神社ではあまり見られることのない光景ですが、ひとえに靖国神社が抱える問題に理由があります。
 いわゆる「靖国問題」と呼ばれるものですが、この靖国神社の問題は歴史とも深くかかわってきます。
 本ページでは靖国神社の問題と歴史についてわかりやすく説明しその理由を紐解いていきたいと思います。


目 次

靖国神社の歴史
靖国神社の問題
 歴史観・歴史認識の問題
 政教分離の問題
 なぜ中国と韓国は批判するのか 
靖国神社のなぜ
 国家神道
 合祀 
 A級戦犯とは
 戦争犯罪による受刑者の赦免に関する決議
最後に
 国内の政治利用
 靖国神社を正しく理解しよう 



靖国神社の歴史


 まず最初に靖国問題を考える上で避けて通ることのできない靖国神社の歴史についてご紹介していきます。

 西欧列強諸国がアジアやアフリカの国々を次々と植民地化していった19世紀。当時の日本は西欧列強に支配されるのを避ける為に近代的国家に生まれ変わり、いち早く西欧列強に並ぶ国力を備える必要がありました。
 日本は運良く短期間のうちに歴史的大変革(明治維新)を経て近代国家に生まれ変わることができましたが、同時に戊辰戦争をはじめとした内乱で多くの命も失われてしまいました。そこで近代国家建設の為に尽力し命を落とした方々を慰霊し後生に伝える為に明治2年建立されたのが「東京招魂社」、後の靖国神社(明治12年に名称改め)です。

 19世紀から20世紀前半にかけてはまさに世界中で植民地競争が行われた戦争の時代。日本も朝鮮半島の支配権を巡り中国と争い(日清戦争)、中国北部の支配権を巡りロシアと争い(日露戦争)、ナポレオン時代から続く民族問題を発端とした第一次世界大戦にも参戦し多くの尊い命が失われました。これらの方々は皆靖国神社へ合祀され、靖国神社は「国家神道」の代表的施設としての側面も持ち合わせていくようになります。

 やがて太平洋戦争へ突入した日本はGDP比で10倍以上もの圧倒的国力を誇るアメリカの前に敗れGHQの支配下に置かれます。靖国神社については当初取り壊す予定でしたが「悪いのは国家神道という宗教であって、慰霊の施設である靖国神社は取り壊すべきではない」という考えのもと(注:靖国神社の存続については他にも諸説あります)、取り壊しを免れています。また開戦当時の国家指導者達は「極東国際軍事裁判(東京裁判)」においてA級戦犯として裁かれます。

 戦後、政教分離の考えのもと国の保護から切り離された靖国神社は一宗教団体として存続し、創建当時の精神を受け継ぎ「国家のために尊い命を捧げた方々の御霊」を祀っていきます。


 昭和28年にサンフランシスコ講和条約が締結された事を受け、日本では極東国際軍事裁判の判決を受け入れた上で受刑者を赦免する「戦争犯罪による受刑者の赦免に関する決議」がなされ戦犯の罪は赦免されます。
 この赦免をうけて靖国神社では戦犯として亡くなった人々も合祀し、昭和53年にA級戦犯で死刑となった人々も「昭和殉職者」として合祀を行いました。
 これらの合祀については当初は何も問題とならなかったのですが、一部のマスコミが批判的な論調で大々的に取り上げた事や時の首相である中曽根首相が靖国神社を公式参拝したこと等に起因して国土を日本に支配された歴史を持つ中国から強い反発が起きます。この反発は年々エスカレートして行き、以前であれば首相が毎年 参拝していた靖国神社ですが、現在は首相が参拝すると外交問題にまでなるいわゆる「靖国問題」のひとつとなっています。

靖国神社の問題・歴史

靖国神社の問題


 靖国神社の問題については国内外・外交上・憲法上と多岐にわたり政治や憲法・宗教の専門家でない筆者が軽々しく説明できない部分もあるのですが、一般的に言われている理由をできるだけ分かりやすく、またあくまでも事実のみを説明していきたいと思います。


まず靖国神社における問題は大きく以下のようになっています
1.歴史観・歴史認識の問題
2.政教分離に違反する問題
3.中国と韓国が批判し国際社会に宣伝している


歴史観・歴史認識の問題

 これは靖国神社に合祀されている英霊の方々が主に大日本帝国時代に亡くなった方々や少数ではありますが戦犯とされる人達もいることから「靖国神社は侵略戦争の象徴でもあり、認めると軍国主義の復活に繋がる」というものです。
 確かに靖国神社は一部の思想を持った方々に利用されている側面はあると思うのですが、靖国神社自体には軍国主義復活を煽るようなものは皆無で純然たる慰霊の施設です。この問題は靖国神社ではなく強い思想を持った人達の考え方の問題だと思います。
 また先の戦争が侵略戦争だったのか、自衛の戦争だったのかという歴史認識は未だに国内外で政治利用されている現状では正しい判断はできず、しばらく時間を重ね後年の専門家が中立公平な価値観でかつ当時の世界情勢を俯瞰的に検証するしかないと思います。ただ筆者個人的には先の大戦は様々な要因が絡み合っているものの結局は欧州戦線も含め植民地獲得競争の果てに発生した大戦であり、帝国主義を押し進める欧米諸国や日本の植民地となったアジア諸国は間違いなく被害者だったと思います。


政教分離の問題

 これは主に国内の憲法上の問題ですが、政教分離とは政府(国家)と宗教は別々であり互いに関与しないというもので日本国憲法第20条に明記されていることです。
 元々は勢力を持ったキリスト教がヨーロッパ諸国の国政に介入して私服を肥やしたりし、場合によっては権力を行使しその国の運命を左右するような事態となった歴史を鑑みて各国のスタンダードとなっている思想です。
 靖国神社は一宗教法人でありその宗教法人に首相や議員といった公職にある者が玉串奉納等の祭祀に関する寄付・奉納を公的な支出によって行うことや公職の立場で参拝するのは違憲であるというわけですが、この件については裁判所や専門家でも意見が分かれています。違憲と判断された裁判がある一方で現在は私費による寄付・奉納が一般的となっていますし、日本国憲法では「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。」とも定められており、参拝を望むなら靖国神社への参拝を禁止・制限することができないという考え方もあります。
 ただ筆者個人的にこの問題は本来の政教分離の根本的趣旨から逸脱しており、政治利用され問題化している側面の方が大きいのではないかと思っています。


靖国神社の問題・歴史


なぜ中国と韓国は批判するの?

 なんだかんだ言ってもこれが靖国問題の要なのではないでしょうか?要するに中国と韓国が首相をはじめとした国家指導者が靖国神社へ参拝することを批判し、多くの国々にも靖国反対を宣伝していること。最近では中国・韓国の働きかけにより多くの国々が靖国神社について誤解しているのが現状です。


 この原因は東アジア近世の歴史と深く関わりがあるのですが要約すると以下のとおりとなります。


 日本は、明治時代に朝鮮半島を日清戦争により清国(現在の中国)の支配から独立させた上で併合しました。つまり、朝鮮半島を日本の一部(植民地)としました。
 さらに中国東北部の支配権を巡りロシアと争い(日露戦争)勝利した日本は中国北東部に満州国を作り中国から独立させ実質的に支配します。ちなみに満州国とは中国の前の国家である清国のことです。
 このように他国を支配するいわゆる帝国主義は現代の感覚では考えられないことですが、当時はイギリスやフランスといった欧米諸国が強力に推し進めておりインドやアフリカ、東南アジアといった国々はほとんどが欧米諸国に植民地化されていました。日本はむしろ完全に出遅れた方であり、やがて世界恐慌が発生すると植民地を多くもっている欧米諸国は保護主義政策をとり、植民地を持ってなく保護主義政策の煽りをまともに受けた日本やドイツ、イタリアと対立しはじめます。
 日本は植民地化されていない中国大陸に活路を見いだし、すでに植民地を多くもっている欧米諸国は日本の勢力拡大を好ましく思わず対立し、やがて日本はアメリカやイギリスと戦争になります(第二次世界大戦)。
 戦争は皆さんご存じのように1945年8月15日、日本の負けとなりその結果、朝鮮半島や中国の一部など支配していた地域を全て失います。

 日本は中国や韓国に対して謝罪したうえで戦後補償として当時の金額としては中国や韓国の国家予算の十数年にも相当する金額を支払い続けることによって、国際法上これで恨みっこなしよとしたのですが、中国や韓国にしてみれば日本に支配された期間というものは誇るべきものではありません。謝罪され巨額の賠償金を得て国際法上解決済みとはいえ、やはりわだかまりは残るものなのでしょう。

ここで靖国神社がでてきます。
 上述の「靖国神社の歴史」で詳しく説明していますが、靖国神社に戦争時の国家指導者であるA級戦犯が合祀されていることが一部のマスコミにより大々的に報じられ中国も国内世論上黙っているわけにはいかなくなりました。
 
 中国や韓国などにしてみれば、日本に支配されていた時代というのは恥ずべき歴史です。その時期の国家指導者が神として祀る200万柱の中に含まれている神社に日本のトップである首相が参拝するなどもっての他というわけです。
 ある意味当たり前のお話ですよね。
 しかし問題なのはこの話がさらにエスカレートし中国や韓国が「靖国神社に参拝する=朝鮮半島や中国の一部の支配期間を肯定する→先の大戦は日本は正しかったと主張している」とか本来は200万人以上にのぼる戦没者に参拝しているのに「A級戦犯に参拝している→A級戦犯はヒトラーと一緒」と本来日本が一切しゃべってないような事や事実と異なることを主張・問題化しはじめ、国際会議の場でも自分たちの立場が悪くなるとすぐに靖国問題を出してくることです。つまり政治利用されてしまっているわけです。これが日本を悩ます問題となっているのです。


 筆者個人的には首相が国家のために殉じた方々を慰霊するのは当たり前のことで外国にとやかく言われる筋合いは無い! と言いたいところですが謝罪したうえに莫大な金額を支払い続けたとはいえ日本は中国に対しては加害者であることは間違いありませんし、お金で済む問題でもありません。
 靖国問題については眠っている英霊達も心を痛めていると思います。ここは中国や韓国、そして国際社会に正しく靖国神社というものを理解してもらう努力を続ける一方で国家主導者の参拝は控えたり、国会議員が集団で参拝するようなことはせず個人で参拝するといった配慮も必要なのではないでしょうか?このように思っています。

靖国神社の問題・歴史

靖国神社問題のなぜ?理由?もっと分かりやすく!


 ここまで靖国神社の問題を説明していくうえで「合祀」とか「A級戦犯」とかよく耳にはするけども「じゃあ分かりやすく説明してみろよ」といわれると返答に困ってしまう用語がいくつかでてきたと思います。この項では靖国神社の問題の理由を分かりやすく説明するうえで理解が欠かせないいくつかの用語や「なぜ?」を説明していきます。


国家神道

 国家神道とは天皇の祖神である天照大神を祀る伊勢神宮を総本山とする国(明治政府)が定めた宗教で戦前までは国教でした。一般の神道と区別することにより天皇を中心とした国家求心力を狙ったものとされていますが、戦後GHQの命により解散されています。


合祀

 合祀とは複数の神様を祀ることで、靖国神社の場合240万柱以上もの戦没者が英霊として合祀されています。
 なお合祀といっても遺骨や位牌などが靖国神社にあるわけではなく、「霊璽簿(れいじぼ)」と呼ばれる名簿に戦没者を記載し決められた祭祀(儀式)を行い英霊として祀っています。つまり英霊の方々の遺骨や位牌は別途家族や関係者が管理し供養しているわけです。


A級戦犯とは

 極東国際軍事裁判(東京裁判)においてはA級、B級、C級と3種類の戦犯が裁かれましたが、このABCは罪の重さではなく罪の種類を表すものです。具体的には以下のようになります。

A級戦犯:「平和に対する罪」であり、簡潔に言えば「戦争を起こした人」ということです。
B級戦犯:病院の攻撃など国際法で禁止されている行為をした人
C級戦犯:捕虜や一般人を殺害したり虐待したりした人。

 このうちA級戦犯については元々国際法上「交戦権」は認められており当時の国際法では日本の国家指導者達を裁くことができない為、急遽考え出された事後法であり法の基本原則から逸脱している(事後法禁止違反)という難しい問題を抱えていますが、日本は昭和27年のサンフランシスコ講和条約で「極東国際軍事裁判の判決を受け入れる」としています。その上で日本国内においては昭和28年に「戦争犯罪による受刑者の赦免に関する決議」により戦犯は赦免されています。


戦争犯罪による受刑者の赦免に関する決議

 この決議については「日本国との平和条約第11条の解釈」など難しい問題が含まれていますので簡単に説明しますと

東京裁判の内容については不公平で復讐裁判的な部分もあり日本としては不満もあるが判決を受け入れる。
その上で戦犯とされる人達の罪は赦免とする。

 というもので昭和33年までには戦犯とされた人達が全員釈放され、A級戦犯のなかには後に法務大臣や外務大臣として活躍した方々もいます。


靖国神社の問題・歴史

最後に


 最後に靖国神社について筆者の個人的な意見をいくつか述べさせてもらいたいと思います。

国内でも政治利用されてないか?

 上項で「中国と韓国が靖国神社を政治利用している」と述べましたが、靖国神社を政治利用しているのは中国と韓国だけでしょうか?靖国神社の支援団体のひとつに「日本遺族会」があり自由民主党の強力な支持団体でもあると同時に靖国参拝を国会議員の方々に呼びかけています。靖国神社へ参拝されている自由民主党を中心とした議員の方々は本心から慰霊の為に参拝しているのでしょうか?中には日本遺族会の票が欲しいが為に参拝している方もいるのではないでしょうか?だとしたら本末転倒なお話です。また自由民主党以外の政党。つまり日本遺族会から選挙の票を得られない政党は、自由民主党を攻撃する為に必要以上に靖国神社参拝を非難し靖神社の存在を貶めるような行為、発言をしてはいないでしょうか?
 「政治家とは戦う職業」です。しかし党利党略の為に戦ってはいけません。国家国民の為に戦わなくてはならないはずです。筆者は靖国神社の問題については国内で政治利用されている=靖国神社について誤解が生じる原因となっている。こんな側面もあるのではないか?と勘繰っているのですがこれは考えすぎなのでしょうか・・・・。


主張は自由。けど靖国神社について正しく理解しましょう

 私たち日本国民はそれぞれ異なる思想や主張、考え方を持っていると思います。日本は自由の国ですので国内外から様々な意見がある中、靖国神社というものを正しく理解したうえで個々が判断する。これが一番大切なのではないでしょうか。靖国神社というものを正しく理解したうえでの「靖国反対(もしくは靖国賛成)」はまったく問題ではないと思いますが、賛成派・反対派を含めて皆さんどれくらい靖国神社を理解しているのでしょうか?本ページでは問題点を色々紹介しましたが、最大の問題点は私たち日本国民が良い悪いも含め本当の靖国神社というものを正しく理解していないところにあるのではないでしょうか?多くの日本人が正しく理解していないのに中国や韓国を説得し、国際世論に理解を求めるなんでナンセンスなお話ですよね。

 あくまでも筆者個人的な意見でした。